月の巡りと共に-「那須贅沢時間」17巡り目「特別編:益子町 合同会社のの 仁平彩香さん家族」
新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。
平和は里に、家族の中にある
「月子」は、〝使う度に那須の原風景を感じてほしい〟と生まれた、子どものような、私の化身のような存在です。益子町にも「月子」のような存在の女性がいます。長崎県出身の仁平彩香さん(35)です。彩香さんが同町に移住して約10年。2023年、夫佑一さん、娘結芽ちゃんと益子での暮らしを商品やワークショップなどで伝える「のの」という合同会社を設立したと聞き、拠点に〝たんけん〟に行って来ました。
陶芸、藍染め、民藝などで知られる益子町。多くの観光客で賑わう市街地から車を走らせ、田畑に吹く風を感じたらもう間もなく。おとぎ話に出て来そうな真っ白な三角屋根のお家が現れます。「のの」です。
道路側から裏の玄関に回ると、一気に空は大きく開け、山々の稜線、瑞々しい田畑の景色が広がります。庭には程良い大きさの畑とお花畑。小さな秘密基地のような場所もあり、主の帰りをソワソワと待っています。
里山を見渡せる家は季節の保存食づくりや遊び、農作業を共にできる「益子、くらす家」(要予約)であり、玄関の土間は自家製の調味料や、育てた農産物、益子焼のかめ、花器などを販売する「益子、くらしの土産店」でもあります。
彩香さん(以下、彩):畑や花畑も、こういう穏やかな場所は信頼で成り立っている気がする。ここも友達や知り合いの人とかのご縁で、じわじわと伝播していけばいいなって。
華奢な体に強い意思が光ります。
長崎県で生まれ育ち、平和活動への関心が高かった彩香さんは、茨城県の大学で国際政治を学び、都内でコミュニティートレード、シェアハウスの設立などに関わってきました。
彩香さんとの出会いは、彼女が上京して間もない時。彩香さんが上司の勧めで、都内で行われた女性起業家として私が招かれた講演会に参加していたのです。講演後の交流会で、ひと際よくしゃべる、人に声をかける(笑)。私は福岡県出身だから直ぐに同郷の匂いを感じ、意気投合しました。
典子(以下、典):3年後、まさか益子町に住むとは。
彩:東京でいろいろ頑張ってみたけれど、事業が立ち上がっても、すぐに終わってしまうことが多くて。「続いていくことに関わりたい」「土地に何か根づいているモノがあるところで仕事したい」と、漠然と探していたら益子に出合った。一度来てみたら、トウモロコシが畑で気持ち良さそうで。「ここなら私も伸び伸びと咲けそう」と思ったんだよね。
2014年5月、彩香さんは地域おこし協力隊に就任。その数か月、東京からUターンして同僚となったのが、現在の夫、佑一さんです。
益子町で大工を営む家に生まれた佑一さんは、千葉県の大学で緑地環境学を学び、都内で自然環境に関する仕事をしていましたが、「子どもを持つなら田舎が良い」と帰郷したタイミングでした。
彩:何か引力かなと(笑)。私は益子に来ても東京ライクな働き方で忙しくしていたけれど、この人は定時になったら「帰ります」。え、定時で帰るんだ!みたいな(笑)。残業していたら、「ま、樹皮の本でも読みましょうや」って。それで、この人は違うなって。
典:佑一さんが、益子そのものだったのね(笑)。ビビっと来たんだ。
彩:そう(笑)。一緒に歩いていると、「○○が咲いている。こっちは○○」とこの人には私には見えないものがいっぱい見えている。協力隊のお仕事で一緒に農家さんを回っていた時も、農家さんもいろんなことを知っていた。野の中、季節の中に暮らしが息づいていた。かっこいいなって。
それで、新しくできる道の駅で農作物や商品を販売する道もあったけれど、二人で「農家さんのように、暮らしを育てていきたいね」って。
2016年、結婚し、彩香さんは協力隊を退任。「Nehru(根をはる=ネハル)」と屋号を付けて、佑一さんと共に地元の方や仲間の協力の下、商品第1号、菜種油「ましこのひとしずく」を生み出しました。
娘の結芽ちゃんを授かると共に、Nehruの商品も育っていき、手作りの梅干しを益子焼の小さなかめに入れた「かめシリーズ」や、焼き塩など、気付けば111種の商品が誕生。
2020年、佑一さんは合鴨農法を実践する農家さんでの2年間の研修を終えて、米作りも始まりました。
彩:家の目の前に、野の暮らしが広がっていて、本当に幸せ。
典:何種類ぐらい育てているの。
彩:あまり気にしたことない。食べたい物が一番(笑)。商品数が多いのも意図したわけではなくて、そこに実り、季節がいっぱいあったから。
「協力隊を辞めて何やるの」「食べていけるの」って心配されたけれど、何とか生きていけるんだよね。
典:何とかなるのよ。
彩:うちのばあちゃんが「とにかく畑か田んぼを少しでも持っている人ん所に嫁げよ。そしたら、どうにかなるけんが」って(笑)。
佑:(笑)
彩:この人「こどもと一緒にたんぼを楽しみたい」って去年から小さな段々の田んぼを借りたの。手作業で大変だけど、「ほだかけ」をしていたら小さい頃に祖父ちゃんと作業したことを思い出して、涙出ちゃった。
典:小さい時の感覚に、戻れたのね。(彩香さんは)芯は変わってないんだよね。
佑:揺るがない。
彩:益子が特に戻す力が強かったんだよね。(佑一さんが)田んぼを始めてくれたことも大きいかな。無心で作業していると何か楽しい。「やらなければいけない」ではなくて、必然なんだよね。こういう感覚も得ようと思ったものではない、結果、得られたもの。
典:作物を育てるって、それ以上の何かがあるから続けられるんだよね。しかも、最後は食べられる!
彩:それ、大きい(笑)。年末は忙しいけれど黒豆を一生懸命仕分けして、「これをやれば食べられる!」みたいな。これって健やかな暮らしだよね。だから、これからは「お裾分け」かなって。
必然的に、自然に―、「のの」は生まれました。
彩:ただ商品を売る、作るのではなくて、「花があるから摘んでドライフラワーを作ろう」「天気も時季も良いから畑に種を植えてみよう」とか。そういう、「暮らしの時間」を分かち合う場所にしたい。
ふと、彩香さんがゆっくりと…言葉を紡ぎ始めます。
彩:子育ても大変だったけれど、どうにかなった。だから、同じお母さんや友達に「もっとのびのびで良いんだ」って感じてもらえる場所にもしたい。植物を育てるって、親なら感じることが多いはずだから。
結芽ちゃんは赤ちゃんの時から心臓が弱く、大きな手術や治療、他にも周りの子より少し異なる大変な経験もしています。
彩:今思い出すと泣けてくる日々だった。なかなか咲かない椿があって、「うちの子はきっと遅いだけであって、いつか咲く」と眺めていた。自分を認めていきながら。
入学前、結芽ちゃんの意思を尊重し、通園ではなく、畑を保育園にして家族でたくさんのことを自然から学びました。
そして、4月からピカピカの一年生。
結芽ちゃんが小学校から帰って来ました。少し照れながらも、テキパキとランドセルの中を片づけていきます。
さぁ、家族でつくったサングリアジュースでおやつの時間です。カラフルなパッケージは結芽ちゃんの絵が基になっています。
彩:「のの」は家族ユニットだからね!
トクトクトク…。サングリアが形も柄も様々なグラスに注がれていきます。結芽ちゃんのコップにはムーミンが描かれています。
彩:最近、「ムーミンの食卓とコンヴィヴィアル展」という展示を観に行ったの。大学では「コンヴィヴィアル=共生」という意味で学んでいたのだけど、展示では「ごちそうを共に食べる」という意味で捉え直していた。あ、つながった。それが、平和かって。
典:平和はもっと足元にあったんだね。
結芽ちゃんの誕生日も近い日だったので、
「お誕生日も、入学もおめでとう」「かんぱーい」
結芽ちゃんが、パパの耳に小さな声で話しています。
佑:結芽のお友達が今日お誕生日なんだって。
再びみんなで「かんぱーい」!
伺った日、家族で鴨のふ化にも挑戦中でした。「親鳥は雛が中から殻をつつく合図を待って、外からつついて殻を破る手伝いをする。早すぎても遅すぎてもだめなんです」と佑一さん。
「啐啄(そったく)同時」。耳を傾ける時間は持てていますか。
合同会社 のの
詳細はhttps://no-no.net/でご確認を。
「益子、くらす家」「益子、くらしの土産店」
【営業時間】10:00~12:00 14:00~16:00(完全予約制)
【営業日】木・日