月の巡りと共に-「那須贅沢時間」3巡り目 「デザイナー 益子悠紀さん」
新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。
自然の「力」は巡り、アートへ
「月子」は多くの人の「力」で成長し続けています。2017年、弊社の敷地内にある空き家に東京から引っ越してきたデザイナーの益子悠紀さん(37)もその一人。那須町出身の悠紀さんが音楽家の夫石田多朗さん、息子曜君と帰郷したおかげでパッケージ、ロゴはより洗練された装いになりました。
悠紀さんはデザイナー、イラストレーターとして、企業のCMキャラクターやミュージシャンのPVのイラストレーション、テキスタイルデザインなどを制作。最近は、川村元気さんとの共作絵本「ムーム」(白泉社刊)の作画をはじめ、書籍の装丁、楽曲提供など幅広く活躍しています。作曲家、音楽プロデューサー、エンジニアである多朗さんは、東京都美術館、上海当代芸術博物館などの展覧会の音楽や、大手企業の事業コンテンツの音楽などを手掛けています。2018年に2人で「Drifter」を設立。悠紀さんが「月子」のデザインを手掛けてくれたのは2019年のことです。
「ヘチマ畑を見て感じた強い生命力と化粧水に懸ける皆さんのエネルギーの塊を、月とヘチマをモチーフに表現しました。ヘチマの葉が外へ開いていく流れが『生命感』につながると思ってツタを渦のように回転させて、ロゴは歴史を感じるデザインに。商品のコンセプトがストレートで美しかったので方向性はすぐに見えました」と悠紀さん。
『月ちゃん』から『月子さん』へ。商品が育まれてきた約10年が昇華されたデザインを見た瞬間、「まさに、これだよ!」という感じでした。
イメージが自然と溢れ出した喜びを語ってくれた悠紀さんがその笑みに至るまでには、多くの苦悩があったそうです。
那須の小学校に通っているころから絵を描くことが大好きだった悠紀さん。陸上競技に熱中した時期もありましたが、美大に通った経験を持つお父さんの勧めで東京藝術大、同大大学院に進学。在学中からプロ活動を始め、卒業後は「人混みが苦手で、体調を崩しやすくなっていた」という体を精一杯奮わせて大学の助手や講師もしながら、活躍の場を広げていきました。
「枠の中で作品を作ることが苦しい時期もあって。良い作品を作るために無理をして、『もがく』という事をずっとやっていたような気がします。その頃の作品をひねくれていて好きと言ってくれる方もいますけど(笑)」
結婚、出産を経て、キャリアを重ねる中、2013年に多朗さんが那須町芦野の石の美術館で開かれた「月子」発売記念コンサートに出演。転機はその2年後。都内の都市開発が活発化し、悠紀さん一家は隣のビルの建設工事の騒音に悩まされたのです。特に多朗さんの繊細な耳は騒音に侵され、仕事、生活に支障が出てしまったそう。移住を考える中、丘の上の空き家に導かれました。解体案も出ていた空き家が一番うれしかったでしょう。
現在、ご夫婦それぞれアトリエ部屋を持ち、鳥の声、虫の囁き、葉のささずり、四季の移り、月の満ち欠け、森の営みに包まれながら創作し、暮らしを楽しんでいます。
「本当にリラックスできています。特に主人は『東京にいたら生きていなかったかもしれない』と」「拾った石で絵を描くとか都会では得られないアイデアも湧いて。小さな変化が生まれていると思います」と悠紀さん。
曜君も声も伸び伸びと大きく、活発になったそう。この土地のエネルギーを一番吸収しているのは曜君かもしれません。子どものエネルギーは特別。意図的ではない、自然に近い力です。丘の上からそのエネルギーが降り注ぐ、この土地にとっても良い変化が起きています。
エネルギーの循環は自然だけではないようです。
自然から人へ。人から人へ。時として、人から自然へ。
悠紀さんには、新たな夢も生まれました。
自分が魅力を感じた店や商品のリデザインをさせてほしいと提案する、その名も「勝手にデザインプロジェクト」です。
「デザインで変える必要があるのかという疑問もあるかもしれないけれど、『月子』さんのように魅力が自然と伝わってくるものは無理なくデザインにつながる。コロナ禍で自分と向き合う時間が増えて、魅力を感じたところに自分からお願いして仕事を創ることも大事だなって」
「私はシャーマン的に依頼主の思いを憑依させて創作するタイプだったけれど、ひどく疲れた時に典子さんから『人は一人で生まれ、一人で死んでいくのだから結局は自分を頼れば良いのよ』と。答えは自分の中にしかないことに改めて気付かされました。今は仕事、家事、育児などを俯瞰的に見られるよう、ゆっくりシフトしている感じです。それも、この土地にこられたから」
移住後、「月子」さんと同じく多くのパワーに育まれる喜びを体験した悠紀さんだからこそ描けた、「月子」のデザインやロゴ。悠紀さんも多朗さんも都内にいた頃はエネルギーを放出し続けて空っぽになりかけていたのかもしれません。〝神に才能を与えられたからこその喜び、悩みがある。負荷が掛かるからこそできる良いものもあるけれど、本来持っている力が無理なく輝くようになると良いな〟と願わずにはいられません。
今、悠紀さん一家は「那須贅沢時間」にゆっくりと溶け込みはじめています。その恵みがどんな創作に昇華されていくのか。「月子」にも新たな展開があるかも・・・ですね。
株式会社Drifter
音楽関連(作曲・音楽制作・音楽プロデュー・音楽出版)
美術関連(アートディレクション・デザイン・イラスト制作)
〒329-3211 栃木県那須郡那須町豊原甲1023-9
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