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カートが空です

記事: 月の巡りと共に-「那須贅沢時間」19巡り目 「喫茶 新川屋 新川真己(まさき)さん、夏澄さん」

月の巡りと共に-「那須贅沢時間」19巡り目 「喫茶 新川屋 新川真己(まさき)さん、夏澄さん」

月の巡りと共に-「那須贅沢時間」19巡り目 「喫茶 新川屋 新川真己(まさき)さん、夏澄さん」

新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。

 

懐かしい・新しいが巡る 食とアート空間

 

 

那須・伊王野方面から、岩壁を遠くに眺め、細い山道、竹林を抜ける辿り着いた里山。

のどかな風景の中に「喫茶 新川屋」はあります。

 

店内に入ると思わず、感嘆の声が出てしまいます。

壁は、下半分が芦野石で上部は欧州映画を彷彿とさせる深く渋い青のようなグレーに塗られ、天上のどっしりとした梁へと続く。石壁も梁も手掘りの跡に営みの歴史が滲み出ています。店主の新川真己さんこだわりの大きなスピーカーからはジャズを中心に洋楽のレコード音。窓、小さな電灯から漏れる光り。妻、夏澄さん制作の地域の草花をドライアップして束ねたリースや壁かけなどの作品が温かく鮮やかに空間を包みます。

 

メニューは、夏澄さんの実家の野菜ものる「那須やさいのランチプレート」、沖縄出身真己さん特製タコライスやカレーとどれも色彩、味わい豊か。自家焙煎珈琲の香りと共に五感を満たし、創作意欲まで沸き上がってくるようです。

 

食とアートが独自の空間を協創する新川屋は、店主の夏澄さんの実家敷地内に2021年オープンしました。 

祖父母、叔母、両親、兄弟達の10人家族。「みんなで作って、みんなで食べる」ことが当たり前の環境で育った夏澄さん。絵を描くこと、物づくりが大好きで、中学生の時から、「一日中絵を描ける夢のような大学がある」と東京藝術大学を目指し、地元の高校を卒業後、埼玉県の予備校へ。

ところが、「自由な創作を求めていたはずなのに、365日受験に受かるための絵を描かなければいけない。三浪し、最後の年は予備校に通えなくなってしまいました」。

なんとか自宅で勉強、課題に取り組み、合格。念願の藝大に入学した時には、絵画表現に自らテーマを見つける事ができない状態になっていたそうです。

 

辛い状況を救ったのが、「食」でした。アーティストの卵たちと創作しつつ、食事を共にすると思わぬアイデアが続々と生まれる。そんなことが続き、とうとう校内のアトリエに食事を提供する場を設けます。「食とアート」。夏澄さんらしい空間が研究テーマ、作品となっていきました。

 

卒業後、「谷中の古民家で飲食営業をしないか」と誘われ、芸大の教授が代表を務めるNPOに参加しながら古民家の維持、活用、保存活動を。後に台東区根岸にある古民家アートスペース「そら塾」に移り、週末はアートスペースの運営、平日は下町の飲食店でバイトをしながら約10年携わります。下町に集まるアーティストや作家、職人などの友人も沢山でき、そこでもたくさんのコミュニティ、アートが生まれたそうです。

 

 

 

典子(以下、典):料理を作ることも好きだったのね

 

夏澄さん(以下、夏):小さい頃から大勢で食卓を囲むことが当たり前で、飲食店の空間が好きだったんです。バイトも蕎麦屋やうどん屋、鮨屋とか家族経営の小さなお店で、まかないもおいしかったな(笑)。

 

典:どのくらい東京にいたの。

 

夏:約10年いました。帰郷のきっかけは、2011年の東日本大震災です。一番仲の良い子の実家が南相馬市の酪農の大農家で、毎日、牛のお乳を搾っては捨てる状況を嘆き、奥熊野の山中に移住したんです。狩猟が盛んで、米も野菜もみんなで作って、みんなで分け合う。その光景を見て、「東京では全てお金がないとはじまらない。自分の家の土で食物を育てて食べられるような場所はないかな。あ! 実家が代々それをやっていた」と(笑)。 

あと、震災直後、週末、那須町に帰ってきて避難所でボランティア活動をしていた時に、移住してきた人たちや面白い人たちにたくさん出会えたことも、戻る決意を固くしてくれました。

それで戻ってきたら、元お蕎麦屋さんだった農産物直売所に併設した場所で茶屋を開くことになって、澤野さんが「遊行茶屋がいいんじゃない」と店名を提案してくれたんですよね。 

 

典:え! 店名の由来については憶えてないけれど(笑)、その頃にはもう出会っていたのね。

「月子」も夏澄さんの一言で今につながっているのよ。

 

夏:え!

 

典:2010年に「月子」を発売して、商品開発、発売までが大変だったのに11年に震災。すっかり心が折れて辞めるつもりだったけれど、夏澄ちゃんが「手伝いたい」って言ってくれたから踏み止まった。それに、今の神土(こうと)にある畑の場所も、夏澄ちゃんが大家さんとつないでくれたから。 

 

夏:なんと重大なことを(笑)。でも本当に神土は、芦野にとって歴史ある大事な場所。地元の方々にとっては当たり前すぎてその重要性を普段あまり意識していなかったような気がします

 

典:あれから竹薮も整備されて風が通り、神社もきれいに。夏澄ちゃんの一言のおかげで、あの辺一帯の雰囲気が変わってきた。小さな動きが揺さぶり合って大きな変化になっていったのね。

 

夏:いえいえ。私は最初の34年ぐらいしか関わっておらず、私のおかげではなく、澤野さん達が長年神土を大切にし、「月子」と共に活動してきたからだと思っています

 

 

 

心地良いレコードの音に導かれ、会話は弾みます。

 

夏澄さんが茶屋に務めて5年。移住前から行っていた友人たちを呼んでの芦野の自然体験ツアーを再開。そのツアーに、都内で会社員をしていた真己さんが友人と参加し、二人は出会いました。

その時、夏澄さんは「こんな人が芦野に来てくれたらいいな」と、真己さんは「日本昔ばなしに出て来るようなこの場所でなら、夢をかなえられるかも」と互いに何か感じるものがあったようです。

  

 

真己さんは、沖縄県那覇市の国際通りのすぐ近くで育ちました。少年時代からクラブミュージックやジャズの流れるお店が身近にあり、「レコードをしっかりした音響でかけて、自家焙煎の珈琲を淹れるようなお店を田舎でやりたい」と夢を抱いていたそうです。しかし、現実的ではないと諦め、都内の会社に就職したのですが

 

真己さん(以下、真):会社員として40代になり。10年、20年先の自分が想像できてしまって辛くなってしまったんです。沖縄に帰ることも考えました。そんな時に芦野、夏澄さんと出会って交流を育む中で、「この地で、二人でなら夢を実現できるのでは」と移住を決意しました。

 

典:タイミングがずれていたら沖縄に帰郷していたかもしれないのね。実家はそんなに田舎ではなかったの?

 

真:結構、都会でした。けれど、母の実家が宮古島の「神様の住む島」と言われている大神島への港がある原風景の残っている地域で、そこと芦野の空気感は不思議と似ていますね。

 

典:その感覚もあって、芦野に引き寄せられたのかしら。

 

 

真己さんは移住後、那須町の地域おこし協力隊に。2017年に夏澄さんと結婚し、協力隊を卒業後、珈琲焙煎機を購入し、焙煎豆の販売をスタートします。

大好きな食の空間とアートを軸に那須の文化、伝統を次世代につなげたい夏澄さん。

原風景に囲まれ、質の高い音響で音楽と丁寧に淹れた珈琲を楽しめる店を開きたい真己さん。

「芦野で喫茶店を開く」は、必然的に二人の共通の夢に。

店を開く場所を探して物件をめぐってもなかなか決まりませんでしたが、灯台下暗し!実家にあった築100年以上の牛舎を1年半かけてDIYで改装。コロナ禍も乗り越え、開店にたどり着きました。

 

 

 

典:開店して約3年。今後の夢は。

 

真:基本的な方向性は変わらず、ブラッシュアップしていきたいです。あと、せっかく畑があるのだから自分たちで野菜を育てられるようになりたいね、と。なので、来年は営業日を減らして、夏澄さんが農家さんで働きながら農業の勉強をする予定です。

 

典:ずっと変わらず、変わりつつ、ね。都内にいる頃は「先が見えて辛かった」けれど、今は自分で、二人で未来の姿をつくれる。

 

真:それは、かなり良かったと思います。

 

 

陽が沈み、窓の外は濃い夜空に。洗練された店内、展示されているアート作品や夏澄さんのドライフラワーの作品のフォルム、色彩がさらに鮮やかに、繊細に際立ってくるようです。

お客様を見送り、夏澄さんが戻ってきました。

 

 

典:今、真己さんの今後の目標を聞いていたの。夏澄ちゃん、来年から農家さんに修業に行くのね。

 

夏:はい。土地はあるので生かさないと勿体ないと、旦那さんに言われて気がつきました(笑)。

 

典:当たり前に身近にあったからよね。外から見ると宝の山だったりする。夏澄ちゃんの目標は。

 

夏:今、植物愛がすごく盛り上がっていて、ドライフラワーを使った創作が楽しい。何の評価も気にせずに、自分が楽しいという気持ちだけで作れて幸せです。

 

典:「楽しい」は伝わるからね。

 

夏:そうですよね。それに、日本人のDNAを感じる。縄文時代の人々もこんな気持ちで自然物からモノを創っていたのではないかと。その原点を大切に、自分の手で物をつくる喜びをもっと極めていきたいです。

 

典:ルーツの記憶は絶対に、私たちの中に残っているはずよね。

 

 

 

ルーツを感じさせてくれる芦野という地域。

その芦野でできた野菜や果物などの食べ物を、互いの感性で彩り、楽しい食とアート、音楽の空間を創る二人。これからも様々な人々が訪れ、那須の文化と歴史に魅せられ、広がり、その素晴らしさが次世代に伝わっていくのでしょう。

「月子」も那須の自然と月の巡り、温かい人々の手で作られ、様々な地域の方々に愛され、その存在を通して、那須、里山の豊かさを伝えていきたいと、新ためて感じたひとときでした。

 

  

喫茶 新川屋

329-3443 栃木県那須郡那須町芦野2350

定休日:火、水、木(臨時休業あり。各SNSでご確認を)

営業時間:11:3017:00LO.16:30混雑時は90分制の場合もあり

https://cafe-arakawaya.com/

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