月の巡りと共に-「那須贅沢時間」13巡り目 「石の美術館 STONE PLAZA 白井栄子さん」
新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。
芦野石が創る 自然と共生する建築作品
「月子」の基であるヘチマが育つ畑は、自然豊かな那須町芦野にあります。那須家一族の芦野氏が戦国時代に築いた居城跡や西行法師、松尾芭蕉が詠んだ「遊行柳」、江戸時代に旧奥州街道の宿場町として栄えた名残など。悠久の歴史が溶け込む里山に2001年、地元産芦野石をふんだんに使い、世界的建築家隈研吾さんが設計した「石の美術館」が開館しました。建設、運営は地元の「白井石材」。元館長、役員の白井栄子さんとは家族ぐるみで親交があり、「月子」のお披露目会や私の夫、澤野新一朗の写真展を開いたこともあります。
美術館は大正~昭和初期に建てられた元農協の蔵で、1990年、白井石材の先代社長が譲り受けたものでした。
3棟の石造りの蔵はそのままの場所でエントランスホール、「石蔵ギャラリー」、茶室に改装されました。茶室は入った途端に静謐な時へといざない、展示や音楽会が開かれる石蔵ギャラリーは作品や音色を抱擁する石の重厚感、寛大さを感じさせてくれます。地元産木材でとてもナチュラルに構造面の補強が施されています。
ショップ、「石と光のギャラリー」、石について学べる学習室、トイレは新たに総石造りで建てられました。中でも石と光のギャラリーは、石壁に空いたブロック穴から射す自然光が石と共に森閑な空気を生み、アート作品への感度を高めてくれます。外も視界や光を意図的に透過、遮断するルーバーが、薄く切った石で造られ、外壁も焼成具合で変わる石の風合いの美しさを伝えています。
敷地をめぐる池、石の橋は里山の空、緑を磨き映し出し、美術館と外界、人をつなぎます。
隈さんが古い石蔵と神聖さ漂う芦野に興味を抱いて設計し、職人たちが先人の知恵と現代の技術を駆使した同館は、石の新旧、建物と里山の境を曖昧にする、自然と人の共同作業の産物と言っても過言ではありません。
「業界も会社も、一番苦しい時期だったのよ」と栄子さん。
芦野石は火山灰・火砕流が生成の主要因とされる安山岩で、福島県白河地方産を白河石、芦野産を芦野石と呼びます。耐久、耐熱性に優れ、準硬石で加工がしやすく、古くから古墳の石室や大名家の墓所、寺社仏閣の基礎や城の石垣、石蔵や鉄道、家屋の基礎などに使われてきました。
戦後、需要は増えて80年代に最盛期を迎えたものの、90年代にバブル崩壊や輸入品の影響で需要は激減。同業者がどんどん辞めていった頃、美術館建設は始まったのです。
栄子さん(以下、栄):「このノミの跡は手仕事で叩いて切り出さないとできない。こういう石蔵はもう作れない」と先代が買って、石の専門誌の編集長が約25年前に隈研吾さんを「新進気鋭の建築家がいる」と紹介してくれてね。隈さんも蔵、石に興味を持ってくれて、今の社長(栄子さんの夫)が「何か地域活性化、発信源になるものを」と依頼して具体的に建設計画が進んだの。
典子(以下、典):先代は価値を見出していたのね。
栄:私は開館と同時に館長になって。何も分からず最初は戸惑ったわ。
典:初めて会った時、池の掃除をしていたわよね。え、館長、社長夫人が長靴を履いて池掃除?!と驚いた。
栄:とにかく働くスタッフが胸を張って美術館を紹介できるようにキレイに保ちたかった。そして、建てられたそのままの状態を維持することを心掛けたの。建物自体が作品だから。隈さんの作品の中でも、建てられた当初のままを残している方だと思う。だから、隈さんもテレビや雑誌などで「代表作」として、いまだに紹介してくれる。
典:余計なことをしないという方向性は合っていたのね。
「石材情報の発信と建築、芸術、文化と石材交流の場」がコンセプトよね。石と芸術を組み合わせるってすごい発想ね。
栄:社長は、とにかく過疎化が進み、寂しくなっていく地元と芦野石、白河石の全国発信の基点にしたかった。
典:芦野石は高品質で高級って、石に詳しい人じゃないと知らないものね。
栄:雨にさらされなければ本当に変色しないの。ここ(エントランスホールの内壁)も100年経って洗ったことないのにこんなにキレイ。でも、外は外で雨に当たった所が黒味をおびて、雰囲気があるの。
あとね、館内にいると時を忘れてしまうのよね。時間の経過を苦に感じない。癒されるの。
典:時間軸が違うのね。程よく外界を遮ってくれて、集中もできる。石って自然が創ったものでしょ。人工物とは違った、科学では証明できない何かの力が作用しているのだろうね。だから、芸術とも相性が良いのかも。
栄:多くの作家さんが「作品が生きる」って喜んでくれる。
典:多角的に石のポテンシャルが感じられる場所になっているのね。
完成までに6年を費やした石の美術館は、日本の石材建築作品として初めてイタリアの国際石材建築大賞を受賞しています。芦野石の名は広く浸透し、里山に多くの建築ファンや国内外の観光客を誘いました。
石の不思議な力のせいか、栄子さんとおしゃべりすると時間を忘れてしまいます。
開館間もない頃、私は、同じく隈研吾さん設計の「那須歴史探訪館」に勤務。外国の方は2館セットで見学する方が多く、よく美術館まで案内したものです。そうする中、意気投合。2005年には“神々の花園”写真展、2007年には「月子」のリリース音楽会を開かせてもらいました。
栄:典子さんとは、波長が合うのよね。次男も同じ歳だし。あとは、月子も13年、365日使っている。さっきある人に「55歳」って言われたのも月子のおかげ(笑)。本当は68歳。時が止まっている(笑)。
典:「時が止まる」!キャッチコピーができた(笑)。月子は自然に近くて、しかも芦野産。栄子さんも芦野に生きているから相性が良いのかもね。あとは、石の効果も。
栄:でも本当に巡りが良い感覚はある。
典:13年…。月子のリリースイベントの頃が懐かしい。コンサートにも最高の場所よね。
栄:そうなの。ジャズとか、バイオリンや三味線、篠笛、琴も合うの。でもね、10月15日から来春まで、今の展示が終わったら内装を少し変えるために休館するの。その間、澤野さんと南アフリカとか行きたかったな。私、自然とかお花がたくさんある所が大好き。
典:行きましょう! こちらで展示したアマリリスの原種の写真は、一定の気温や雨量など条件が揃わないと咲かない花だから3月、いつでも行けるように準備して撮ってきたの。地平線まで一面に咲き誇って、自然交配だから全部表情が違うの。
栄:そういうのが良い!! 2年後、70歳記念に、アフリカに行くことを目標にするわ。
典:美術館としての目標は。
栄:隈さんの作品として、ずっとみんなに愛されるといいな。
開館当初、外国の方が観に来ることを不思議に思う方も少なくなかったけれど、徐々に大型バスで観光客も来るようになって、展示、コンサート、茶会や講演会が定期的に開かれるようになって。そして、地域活動の拠点にもなってきた。新たな交流の場、芦野を知っていただくきっかけの場でいられたらなって。
地元の石を使った美術館は、時に静かで安らかで、時に温かく、表情豊か。時を重ねるごとに芦野の四季になじんでいっているように感じます。
自然、植物が大好きな栄子さんが約20年、館長を務めてきたことも納得です。石の美術館は、建築物であり、建築物ではない。建築と自然の境界を行ったり来たりする存在として芦野に「生きている」のかもしれません。
石の美術館 STONE PLAZA
〒329-3443 栃木県那須郡那須町芦野2717-5
0287-74-0228
【営業時間】
10:00~17:00(最終入館は16:30)
【定休日】
月曜日(祝休日の場合は翌平日)
※2023年10月16日から館内改装のため2024年春まで休館
【利用料金】
大人 800円(700円) 小中学生 300円(200円)
※( )内団体[15名以上]料金
※ショップは入場無料
【公式サイト】