月の巡りと共に-「那須贅沢時間」15巡り目法人那須フロンティア 就労支援事業所 喫茶店ホリデー 鈴木拓真さん」
新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。
「月子」の畑でヘチマも心も健やかに
ジリジリと太陽の音が聞こえそうな猛暑日が続いた2023年の夏。那須町の神土にある「月子」の畑は、例年より多くの笑顔、優しい会話が生まれ、大地に、青空に染み込みました。
特定非営利活動法人「那須フロンティア」が展開する就労支援事業所「喫茶店 ホリデー」のメンバー(通所者)さん達が那須塩原市社会福祉協議会の利用者さん達とともに、「月子」の原材料であるヘチマの栽培を手伝ってくれたのです。
同法人は〝メンタルヘルスを中心としたまちづくり〟をモットーに、メンタル面で生活しにくさを感じている方々(18~64歳)の一般企業への就職を支援しています。木の温もりと甘く香ばしい香りに満ちた「ホリデー」で2年間。喫茶店の業務を通して、メンバーさんは働く喜びを体感します。
喫茶店の奥には作業場があり、月子のラベル貼りや梱包、発送で8年近くお世話になっています。栽培からのコラボは、今年が初めて。メンバーさんがさらに多くの地域の方と交流を育み、地域も賑わうことを願い、4月に入社した作業療法士(OT)の鈴木拓真さん(25)が中心となってスタートしました。
6月からホリデーの中庭で種から苗を育て、7月、畑に定植。「月子」草創の頃から自然に近い農法を教えてくれている山口謙一郎さん指導の下、芽かきをしながら畑の管理に取り組んでいただきました。
「これくらいで」「いい塩梅に」「適度に」
曖昧な表現では理解が難しいメンバーさんもいます。鈴木さんは工程を一つ一つ分かりやすく、具体的に説明し、作業の『見える化』を進めてくれました。作業を可視化できて、「月子」の畑作業もバージョンアップ。酷暑の中でしたが、無事に、年一度の採水の日である秋の満月の日(2023年は9月28日)を迎え、今年の作業は終わりました。
澤野(以下、典):本当に大変な暑さの中、皆さん一生懸命やってくれましたよね。達成感とか何か感じていらっしゃいましたか。
鈴木さん(以下、鈴):分かりやすい言動には表れていませんでしたが、畑とお店の行き来の車中で畑に関する話題が最後の方は明らかに増えました。興味がないと話題は続かないはず。作業にちゃんと関わっている実感があったのだなと思います。
典:自分が栽培に携わったものが商品になって、お客様に届けるという一連の流れが繋がるから、発送作業も少し変わった見方になるかもしれないわね。
モノって人の思いがのる。純粋に取り組んでくれたメンバーさんの思い、鈴木さんがスムーズに作業できるようにしてくれた思いも全て商品に入った。その価値は見えないし、お金には換算できないけれど、確実にある。
月子の畑には、時にホリデーの皆さんとともに引きこもりや不登校に悩む方、看護学校の実習生なども来てくれました。共に作業に汗を流したり、休憩中にみんなでおやつを囲んでお話したり。神土も賑やかな声を浴びて、喜んでいたに違いありません。
鈴:言葉は決して多くはないけれど、いろんな方と共通の作業に関するお話をすることがすごくいい経験になったと思います。引きこもっていた方がホリデーとつながって、月子さんの畑でご一緒して、人と話せる状態になれる。すごいことだなと。「植物の成長は自分がしたことがそのまま還元されているようなもの。達成感があった」との感想もあったそうです。
何より強く感じたのは、澤野さん、山口さんたちが失敗をとがめない。失敗を次に生かすという思考で指導。その雰囲気もすごく良くて、かなり居心地の良い空間、場所でした。暑さ以外は(笑)
典:暑さはすごかったわよね(笑)。自然は同じことが2度とない。積み重ねはあるけれど、ある意味毎年チャレンジでハプニングはつきもの。それは全部当たり前、自然なことなのよね。だから面白い。逆に、できて当たり前という状況にいると、「自分だけできない」という錯覚に陥る。自然の中に身を置いてみると価値観が広がる感覚はありますよね。
鈴:月子の皆さんは「それダメ」「失敗だよ」が無かった。できなくて自信を無くした方が誰もいませんでした。
典:うちの畑は特に個性的なので(笑)。イレギュラーなことに直面することを経験するには畑って丁度いいですよね。ヘチマも一本一本違う。私でも間違えて切っちゃったとか毎年あるんだから(笑)。
そんなイレギュラーへの対応は、基本的な作業工程を理解できているかで全く違う。工程表、手順書、動画などを作った鈴木さんの作業療法士としての資質はすごいな!と。そのツールがあることで関われる人も増えますからね。
福島県出身の鈴木さんは中学生の時に遭った東日本大震災で多くの支援の場面を見て「人の役に立つ仕事」を目指すように。高校生の時に腰を骨折した際にお世話になったリハビリの職業に興味を持ち、栃木県大田原市の国際医療福祉大学に進学。那須フロンティアの理事も務める先生の授業を機に、「地域支援、地域に根差した就労支援にリハ職として関わりたい」とOTの道へ。同大大学病院で2年経験を積み、今年から念願のホリデーでの勤務が始まりました。
鈴:僕は、幼少期、ショッピングセンターで弟とかけっこしたり、陳列されているマスカットを食べたり、ADHDの症状が少しあったのではないかと。OTは体だけではなく、そういう症状に悩むお子さんにも支援ができる点にも意義を強く感じました。
鈴木さんの穏やかな笑み、熱い思いに多くのメンバーさんが救われていることでしょう。
鈴:畑の作業を通して、いろいろな人と共通の目的、目標に向かうことが自然な交流を生むこと、苦手な作業も小さな成功の蓄積で克服できることが分かりました。何より、「苦手と決めつけず、どんな工夫をすれば作業に適応できるのか」と支援する側の僕らが視野を広く持たなければいけないのだと。
典:得意分野を生かすことも大切だけれど、隠れた能力を発見してあげることも重要なのかもしれないですよね。今後、施設として、個人としてやりたいことは。
鈴:来年も月子プロジェクトを継続させていただき、さらに地域の皆さんとも作業をご一緒させていただいて交流を広げたいです。地域にどんどん関わらせていただくことで、障がいを持った方への理解を少しずつでも広げられれば。
個人としては、民間企業での障がい者の法定雇用率が年々上げられる反面、企業側が障がいのある方にどう接していいのか分からないなど受け入れ態勢がまだまだ整っていません。僕が企業に入って、企業側の受け入れ態勢を整える役割を担っていきたいです。誰もが働きやすい社会を創っていきたいです。
典:鈴木さんの存在は正に今、必要よね! 作業療法士プラス、アドバイザーみたいな! そもそも、企業側の「義務」になっている時点で違うのよね。その方がいることによって良い方向に変わることがあるはず。積極的な意味で雇用してほしいわよね。
鈴:おっしゃる通りです。実際に、同じ職場に障がいのある方が働いたことで皆が優しく分かりすく伝えようという雰囲気に変わり、業務が円滑になったという声も聴きます。
典:そう考えると、「月子」の畑で先進的な事が行われていたのね。
鈴:はい!素晴らしいモデルケースです。でも、「月子」さんの畑だからこその効果もあると思います。
典:不思議と穏やかに、自然体になれますよね。
「月子」は自然の力、月の導き、そして、多くの方々の優しさで育まれてきました。その上、今年は、丁寧に説明する職員の方の声、作業に一生懸命向き合うメンバーさんの瞳、すくすく育つ苗たちを応援するささやきなど。さらに、多くの力(ギフト)が「月子」に加わったような気がします。
NPO法人那須フロンティア 就労支援事業所 喫茶店ホリデー
- 場所:〒325-0055 栃木県那須塩原市宮町2-14
- TEL:0287-62-2134
- https://nasu-f.com/cafeholiday/
- 営業時間:9:45~16:30
- 定休日:日曜日、月曜日