月の巡りと共に-「那須贅沢時間」5巡り目 「コミュニティ・マーケット・サンノハチ 沓掛由美子さん」
月の巡りと共に-「那須贅沢時間」5巡り目 「コミュニティ・マーケット・サンノハチ 沓掛由美子さん」
新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。
「種」をつなげ まちをつなぐ
JR西那須野駅の程近く。街、人に寄り添うように築約120年の古民家が佇んでいます。「コミュニティ・マーケット・サンノハチ」。土間として使われていた場所に、旬のオーガニック野菜や果物、製法・原材料にこだわった大豆製品や各種調味料、加工品、環境に配慮した日常雑貨などが所狭ましと並び、お客様との出会いを待っています。もちろん、「月子」も。
「野菜、食品のストーリーを伝える場にしたい。どんな肥料を使って、どんな種を使って、どんな土壌で育てられているか」と一句一句抱きしめるように語る、同店マネージャーの沓掛由美子さん(57)。
旧黒磯市出身の沓掛さんは夫健一さんの家業である創業約90年の食品スーパー「三桝屋(みますや)」を家族で営み、当時から大田原、西那須野地域では珍しいオーガニック野菜や伝統製法の加工食品を扱っていました。宇都宮にも進出しましたが、叩き売りのような価格競争が脅威を振るい、2019年3月閉店。「この先どうしようか」と思案に暮れていた矢先、「古民家を健康と出会いの場に」と計画していたオーナーの瀬尾弘司医師と出会い、同年12月、サンノハチ開店に至りました。
沓掛さん(以下、沓):ずっと激安品に疑問がありました。無理な大量生産は地球を痛め、自然と向き合い実直に栽培に取り組む農家さんを苦しめるだけ。安くても、同じ形をしていても、エネルギーが全く違います。うちのお客様はみな裏面の原材料を見ます。私より詳しい方もいて勉強になります。
私:カロリー、栄養素などは数値化されていて分かりやすいけれど、野菜がどんな土壌、どんな種からつくられているか、エネルギーがあるかとかは検出されない。生産過程、背景を想像できないと本当の価値は分からないよね。
開店当初は大豆製品と少数の野菜販売のみでしたが、お客さまの要望に応えるうち商品数は増え、「適正な価値を見出してくれる」と農家さんから農家さんへと紹介の輪が広がり、農産物も多彩な顔触れが集まってくるようになりました。
ストーリーを伝えるため沓掛さんは、農家さんと交流できるワークショップを開いたり、在来種の種をもらい育てたり。今年10月、自宅にキッチンを設置。育てた野菜や販売でロスになりそうな食材を活用したお弁当の製造も始めます。
沓:大豆も作っています。
私:大豆の輸入量が激減し、14年間値上がりしていなかった豆腐がやむを得ず値上がりしたわよね。日本は毎日たくさんの大豆製品を食べているのに大豆自給率がたったの7%(平成29年度調査)。国内での大豆自給率を上げないと。
沓:コロナ禍、原料の高騰などで輸入の仕組みが大きく変わり、他の食材もこれから入ってこなくなりますよね。これからは自給自足、地産地消が必須。地元の農家さんと連携して、その地域モデルを作りたい。
私:昔ながらの本来の姿に戻っているよね。プラス新しい姿もかな。テクノロジーも利用しつつ、さらに暮らしやすくなればいいですよね。「新縄文文化」「令和人」だね。
サンノハチは2階の座敷をフリースペースとして展示会やワークショップなどで活用。看護師や社会福祉士などによるセミナーなどヘルスケアを取り入れた複合的なコミュニティ作りも進めています。社会福祉士、社協の方などが同席した「引きこもり支援の会」や看護師さんに気軽に相談できる「暮らしの保健室」なども開いています。
今後は、出荷からこぼれたB品を製品化し、障がい者雇用につなげたり、「一般社団法人 SEEDS OF LIFE」代表のジョン・ムーアさんの指導を仰ぎ、在来種子の保全活動にも一層力を入れていきたいそうです。
沓:種の交換会を開き、一株、二株でもいいから野菜を作っていただきたい。種を守っていくために。
私:今流通しているのはだいたいF1。けれど、F1を庭に植えると昔に戻っていく。これからは戻していく作業よね。在来種を絶やしてはいけない。どんどん繋げていかなければ。ここがその拠点になる。
沓:そうですね。そして、地元の皆さんが本当の意味での健康になっていく。
閉店という経験があったからお客様と関係を深めることができました。全ての経験が今生かされています。苦しいこと、困ったことがあったら互いに発信してみんなで助け合う「本当のまちづくり」がしたいです。
古民家に温かく抱かれ、会話は弾みます。
沓掛さんは、長年の「月子」愛用者でもあります。
沓:肌にスッと入ってくる。月のリズムに合わせた製法、澤野さんの思い、ストーリーと共につけさせていただいている。澤野さんが作ったからこそというのもあります。
私:化粧水だけれど、〝肌から飲むもの〟という感覚で野菜と同じ立ち位置で作っています。
沓:種取りもしているんですか。
私:始めは買っていたけれど、那須で育てた種の方が、発芽が良い。結局、種はその場所を知っているのよね。
沓:「何とか生き延びよう」と。種は本当に賢い。だから、一粒でもいいから蒔いてほしい。特に子どもたちに。
私:何事も一粒の種から始まり、永遠とつながっている。だから、今ここにいる。私たちも種なのよね。
瀬尾医師、東京都市大学の学生、地域の方々と協同で始まった「西那須野まちをかえるプロジェクト」。その口火を切った「サンノハチ」。「サンノハチ」のロゴはカエルの目、卵がモチーフで「まちをカエル」「食をカエル」という意味が込められています。
これからもじっくり時間を掛けて、同じ敷地内にある家屋2棟、石造りの倉庫、石蔵を「みんなでまちを住みやすく変えていく拠点」に生まれ変わらせていくそうです。
古民家が建てられた120年前はもう少し空気も水も土もきれいで、いろんな事がもっとシンプルだったかもしれません。進化し得た技術、テクノロジーを賢く使うための智慧を、今、沓掛さんたちが先陣を切って探求し、発信に尽力している。
古民家が「さてどこまで戻せるかな」と見守っているような気がします。
私も「月子」を通し、さらに「自然が寄り添ってくれるような農法を極めていきたい」と初心にカエルひとときでした。
コミュニティ・マーケット・サンノハチ
〒329-2727 栃木県那須塩原市永田町3-8
0287-48-6835
【営業時間】
10:00~18:00
【営業日】
火〜土曜日