
月の巡りと共に-「那須贅沢時間」7巡り目 「natural restaurant OURS DININGアワーズダイニング」
新たな目標設定やチャレンジの始まりに適している、新月の日。そんなエネルギーが満ちてくる時に、那須の自然におしえられながら満月化粧水「月子」を誕生させた(株)サクネス代表の澤野典子が那須周辺で素敵な生き方を紡いでいる方をご紹介。あなたの中の新たなスイッチが見つかるかもしれません。
「自然循環」の恵みで笑顔の食卓を
那須の観光地の喧騒から少し離れ、山々の木々が風と戯れる音、広い庭で楽しそうにささめきあう草花、白い壁に注ぐお日さまと木の家具の温もりに身を委ねていると、キッチンから「おいしいよ、召し上がれ」と香りのお誘い。テーブルには生き生きと盛り付けられた野菜たちがずらり。頬張るたびに、自然の声がゆっくりと体に染み込んでゆきます。
「メェー」
時に看板山羊のあずきちゃんの歓迎の声も響きます。
旬香創作料理店「アワーズダイニング」は2006年、阿波の国、徳島県から移転。オーナーシェフ濱口正遠さん、スイーツと接客を担う奥様の淳子さん二人が「自然循環」をテーマに野菜5、60種、エディブルフラワーとハーブも2、30種育て、ジャムや調味料、お漬物などの加工品、保存食、ハムや燻製、さらに器、椅子、テーブルも作り出す、自然と食に心を尽くしたお店です。
5~11月の第2、第4土曜には自然農法の農家やクラフト作家さんたちが主催するオーガニックマルシェ「大日向マルシェ」の会場にもなり、お店の前のお庭はたくさんの笑顔で溢れます。
濱口夫妻との出会いは、2010年から始まった地球環境について考えるイベント「アースデイ那須」。10年以上親交を育み、正遠さんが無農薬玄米をじっくり40時間も焙煎した「玄米珈琲」の香ばしくて優しい味わいのとりこになり、月子のサイト内で販売もしています。「玄米珈琲」は二人がレストランを始めた頃に米の買い取り価格が低下し続ける実状を憂い、「新たなお米の消費につなげて日本の稲作、美しい原風景である田んぼを守りたい」という思いをこめて作りはじめた逸品です。
正遠さんと淳子さんが出会ったのはともに20代の頃、長野県白馬村のお仕事で。元々有機農家に憧れていた正遠さんでしたが、職場の寮でご飯をとても楽しそうに作る正遠さんの姿を見た淳子さんは「まずは料理人になって生産者や食べる方の気持ちを知ることから始めてみたら」と提案。正遠さんはレストランや割烹料亭などでぐんぐん技術を吸収。2人でカフェやアンティークショップが併設されたペンションの運営も任されたそうです。「空間全体でのおもてなし」という今のスタイルを培い、2001年、淳子さんの故郷徳島県の街中で独立を果たしました。
開店から5年、街中のためやむを得ず生ゴミを廃棄する日々に正遠さんのストレスは大きくなり、辛そうな表情が増えたことに淳子さんも心を痛めます。二人は「土がある暮らし」ができる場所探しに着手。移転先探しとともに様々なボランティア活動に参加する中、有機米の副産物藁を建築資材に活用する「ストローベイルハウス」の普及を図る活動で出会った那須の人たちの温厚な人柄、広々と開かれた那須の景色に導かれ、現在の地で「自給自足」の実現に向けて歩み始めました。
移住、移転オープンと同時に念願の農業、加工品作りをスタート。廃油などを原料にした洗剤、せっけん作り、掃除や消臭、EMの代替えにもなる微生物洗剤の活用、ワークショップの開催など夢に向かい着々と歩む中、二人の心にまた新たな思いが芽生えたと言います。
淳: 2010年のアースデイ那須と翌年に北関東大震災を経験し、全て自身でまかなえても近くの方とのコミュニケーションがなくなり孤立してしまうのは違うと感じたんです。レストランとしては農家さんを応援したり、食べ物に関する情報をお客様と共有したり。地域全体と調和した方が自分たちの幸せにつながるのではないかと。
私:お互いが得意なことで補い合って自立し合う方がごく自然よね。土の中も同じよね。
淳:さらに2011年の震災後、ストローベイルハウスの活動で出会ったご夫妻から「大日向マルシェを始めたい」とお声かけが。不安なときにこそお話できる場が必要と思い、お庭を会場に提供しました。最初はお客様もまばらでしたが、10年以上続いています。こんなにお互いを思いやり、気持ちいい時が一緒に過ごせるのだなって。「ゆるくつながる」。不思議な心地良さがあります。
私:ゆるいからこそ形を変えながらいつまでもつながっていられるのかもね。みんなの声や表情が、お店とお庭に溶け込んでいる感じがすごく良いのよね。
2015年、ボランティアやマルシェでつながった友人たちの協力の下、正遠さんはついにハーフビルドで店舗も建てました。
私:建物、敷地には循環につながる様々な仕組みが散りばめられているのよね。
正:そうですね。床暖房のエネルギーとして地域廃材、ダンボールなどのゴミも熱源として消費できます。生活排水は全て微生物浄化槽できれいにしてビオトープに。ゴミも排水も自分としては資材、肥料になる。雨が降れば雨水タンクに水が溜まってうれしいっていう(笑)。そういうふうに捉えればより暮らしやすくなる。
私:ゴミと言われてしまうモノに新たなに命を吹き込んでいるのね。災害でライフラインが止まった時にここが救いの場所になりそうですね。ノアの箱舟じゃないですけど。
正:そういう循環の流れを作って、それを見た方が私もできるのかなって思ってくれたらうれしいです。
自然農法への想い、強く心地良い〝つながり〟、二人の前向きな、本質的な捉え方はお料理に昇華されていきます。
ある日のメニューは、菜の花のポタージュスープ、「ブリニ(ロシア・ウクライナの郷土料理そば粉と小麦粉のパンケーキ)」那須の森チーズ添え、紅芯大根のいぶりがっこなどの前菜に、「豆腐と野菜のすりおろした擬製豆腐の蒲焼き仕立て」、人参フライなどの主菜に玄米ご飯、味噌汁。さらに、苺のブランマンジェ・那須ミルクジェラート・ココナッツメレンゲのデザートなどなど。自家菜園、信頼できる生産者さんから届いた新鮮な食材が慈しむように丁寧に調理されています。
私:今日の木の御膳はお庭をのぞき込んでいるようで、楽しく、おいしくいただきました。
お店をやっていて楽しい時、やりがいを感じることは。
淳:「出会い」ですね。準備、仕入れする時も仲良くなった生産者の方のお顔や声が浮かんで楽しいし、お店でもお客様の記念日や節目、お祝いの美しい光景が広がって。同じ時間を共有できてとってもうれしくなります。
あと、正遠さんが健康で気持ちよく、やりたいことを実現できていたら幸せです。
私:素敵。見習わなきゃ(笑)。
コロナ禍でも「料理の提供の仕方、暮らしを見直す良いきっかけだね」と捉え、二人はコース料理からサーブしやすい御膳スタイルに変え、テラスに軒、テーブルも制作。外に販売コーナーも設置したそうです。
二人のポジティブな捉え方が、「自然循環」の大きなエネルギーの一つなのかもしれません。
「それぞれの」食事の充実が「私たちの」「世界の」食卓の充実、平和につながる。そう感じて、今日のご飯に向き合ってみませんか。
帰り際、淳子さんはほほ笑みささやきました。
「土の中にいれば全て丸くおさまるんです」と。
natural restaurant OURS DININGアワーズダイニング
〒325-0304 栃木県那須郡那須町高久甲5834-14
TEL:0287-64-5573
TEL:090-7579-8765
【営業時間】
12:00-15:30(現在12:00~12:30・13:00~13:30頃からの2部制)
18:00~21:00 (LO 19:00) ※ディナーはしばらくお休み
※昼夜どちらも要予約
※現在、コース料理はお休み中。『那須の恵みランチ御膳』(税込み2200円)~
【定休日】
水・木・金曜(祝日、お盆は営業)
冬休みあり
※スケジュールの詳細はホームページなどでご確認を